大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島高等裁判所 昭和53年(ネ)145号 判決 1978年10月09日

控訴人

大崎喜久男

被控訴人

有限会社興貞樹指工業

右代表者

奥貞順治

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一控訴人が昭和五二年八月二〇日訴外峰本に対する債務名義に基づいて本件物件につき照査手続をしたことは、当事者間に争いがない。

二<証拠>によると、訴外峰本は、被控訴人に対し昭和四九年一〇月上旬から昭和五〇年四月九日までの間のプラスチツク製品の加工賃及び原料代として九八〇万五〇八四円の債務を負担していたこと、被控訴人は、前同日訴外峰本との間で公正証書を作成し、同訴外人は、右債務を同年五月一〇日から同年八月三一日までの間に六回に分割して支払うことを約し、右両名は、右債務の履行を担保するため、本件物件の所有権を内外関係とも完全に被控訴人に譲渡し、同訴外人が債務を完済したときは、本件物件の所有権は、当然同訴外人に復帰する旨の譲渡担保契約を締結し、占有改定の方法によりその引渡を了したこと、同訴外人は、始めの三回分の分割金を支払つたのみで、その後遅滞に陥り、残り三回分の分割金合計五九一万九七二五円が未払であることが認められ、これを動かすに足りる証拠はない。

右認定によれば、被控訴人は、本件物件につき訴外峰本との間で譲渡担保契約を締結したものと認められるから、譲渡担保権者たる地位に基づいて本件強制執行の排除を求めうるものというべきである。

三抗弁1、2に対する当裁判所の判断は、原判決理由三と同一であるから、これを引用する。

四次に、控訴人の当審における新たな主張について判断するに、被控訴人が本件物件を訴外峰本方から搬出したうえ、昭和五二年二月二八日山尾産業株式会社との間で本件物件につき譲渡担保契約を締結したことは、被控訴人において明らかに争わないので、自白したものとみなされる。

ところで、一般に、譲渡担保設定者は、その所有する譲渡担保の目的物件につき、譲渡担保契約成立後においても、契約当事者以外の第三者の一般債権者が差押をした場合には、譲渡担保権者がその地位に基づき異議権を有するのとは別個に、自己に留保された固有の権利に基づいて、目的物件が右第三者の責任財産に属しない旨を主張して右強制執行の排除を求めうるものと解される。(この問題については、譲渡担保権者が譲渡担保設定者に対して負う目的物件を担保目的の範囲内で管理保存すべき義務に対応する設定者の請求権に基づき、民法四二三条により設定者が担保権者に代位して異議権を行使し得るとして、右と実質的に同様の結論を導き出す理論構成も考えられるが、譲渡担保の本質に鑑みると、むしろ本説示の如く、端的に設定者固有の異議権を認めることが、より適当であろう。)そして、右のように所有者から譲渡担保の設定をうけた譲渡担保権者が目的物件につき自己の債権者等とさらに譲渡担保契約を締結した場合、右譲渡担保権者は、全くの無権利者となるわけでなく、再譲渡担保設定者として、設定者に留保される固有の権利はなおこれを保有しているものというべきであるから、譲渡担保権者は、再譲渡担保契約締結後においても、前述の当初の設定者の場合と同様、目的物件につき再譲渡担保契約当事者以外の第三者の一般債権者がなした強制執行の排除を求めうる権能を失わないものと解するのが相当である。

したがつて、被控訴人は、本件物件につき前記会社と譲渡担保契約を締結した後においてもなお、訴外峰本の債権者である控訴人がした本件強制執行につき、本件物件が同訴外人の責任財産に属しない旨を主張してその排除を求めうるものというべきである。<以下、省略>

(胡田勲 北村恬夫 高升五十雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例